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東京地方裁判所 昭和32年(タ)258号 判決

原告 平山トメ

被告 平山才東

主文

原告と被告とを離婚する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を求め、請求原因として原告は日本人であつたが、昭和十七年十一月十二日朝鮮人である被告と届出により婚姻し、東京都内で同居生活をしていた。ところが、被告は結婚四月目頃から三浦敏子を情婦とし、収入も殆ど同人に与えて、原告には与えなかつたので、原告は昭和二十五年六月頃生活費を得るため被告と別居して生活を維持していた。また被告は昭和二十三年十二月二十四日窃盗罪により懲役三年の刑を受けたり、時折り原告を暴力で威嚇して金銭を請求したりしていたが、その後行方不明となり現在に至つている。かようにして被告は悪意を以つて原告を遺棄したものであるから裁判上被告との離婚を求める。と述べ、立証として甲第一、二号証を提出し、証人黒古常吉、同福田シンの各証言及び原告本人の尋問の結果を援用した。

被告は公示送達による合式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しない。

理由

公文書である甲第一号証と、原告本人尋問の結果によれば、原告は日本人であつたが、昭和十七年十月十二日東京市深川区長に対する届出により朝鮮の国籍に属する被告と婚姻したことが認められる。

証人黒古常吉の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原被告は東京都において夫婦生活をしていたが、被告は酒呑みで、あまり仕事はせず、収入は全く自分だけで費消して原告には与えず、また三浦敏子を情婦としたり、窃盗罪により刑事処分を受けたりしたため、原告は被告と一緒になつたり別れたりという生活を繰返えしながら、自活していたが、被告は昭和二十七年頃からその消息を絶ち、原告を遺棄した事実を認めることができる。

法例第十六条によれば、離婚はその原因たる事実の発生当時における夫の本国法に依るべきものであるところ、被告は北朝鮮人であるから、本件離婚原因発生当時の被告の本国法である北朝鮮の法律によるべきであるが、右法律は現在当裁判所においてもこれをつまびらかにすることができない。従つてこのような場合には条理によつてこれを判断すべきものである。(明治八年大政官布告第一〇三号裁判事務心得第三条)そこで北朝鮮における本件離婚原因の発生当時の条理につき考えるに、まず現今配偶者による悪意の遺棄を離婚原因として規定する法廷地法である日本民法及びその他諸外国の立法例、また文明社会において悪意の遺棄が婚姻の本質である夫婦の協力扶助の理念にもとり、その本質を破懐する事象として観念せられていること、また悪意の遺棄を離婚原因とすることは被告の本国においてかつて施行されていた法律並びに旧慣にも反しないことは顕著な事実であること等を参酌して考えれば、北朝鮮の社会においても配偶者による悪意の遺棄は条理上到底許さるべきものではないと思料されるので、これは当然離婚の原因となるものと解する。そして日本民法第七百七十条第一項第二号にも該当するから、原告の被告との離婚を求める本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中宗雄)

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